あの人と私だけのてばなし

独身時代の私の職歴。

あげればキリがないのですが、そのなかで通所授産施設(作業所)での介助職員というお仕事がもっとも長く続いたお仕事でした。

通所授産施設というのは、養護学校を卒業して成人された方、心身に障がいがあって長期間お家でしか過ごすことのなかった方が通われる場なのですが、ご縁があって有償ボランティアとして働き始め、後に正職員として採用されました。

通所者のみなさんと一緒に内職をしたり、一緒にお弁当を食べながら必要な時だけお手伝いしたり、一緒にお散歩に行ったり、一緒にトイレの中でウーーーン!って言ってみたり…。

働き始めて1年が過ぎた頃、視覚と聴覚の重複障がいを持った男性が新メンバーとして通われることになりました。

もともと聴覚に障害があって、後からご病気で失明されたという経緯があり、出会った頃の彼はいつも不機嫌そうに見受けられました。
*今思えば、不機嫌というより不安だったのだと思います。

朝、送迎バスから降りるときに肩を叩かれ手を引かれるままに移動し、作業所内では案内された席でお昼ご飯を待ち、夕方また肩を叩かれ手を引かれるままに移動し、お家へ帰っていく。

お手洗いへ移動する(介助を受ける)のを避けているのか?水分を摂ることをすすめても断られることも多々ありました。

どんな気持ちで1日過ごされているのだろう。
気になって仕方ありませんでした。

あるとき、ご家族と雑談しているなかで、彼は以前に通っていた施設ではとても明るく、施設のスタッフさんと手話を使っておはなしされていたということを知りました。

失明されたことで交流手段だった手話が読み取れなくなってしまわれたのです。
想像してもしきれないほど悲しかったでしょうし落胆なさったと思います。

そのお話を伺った翌日、私は思い切って彼にアタックしました。

彼の肩をそっと叩いてから、両手を持って私に近づけ両手を持ったまま
「おはようございます」
の手話をしてみました。

1回目はキョトン?とされていましたが、懲りずにもう1度やってみたところ
「あ!おはようて言うてるんか?」
の表情を見せてくれました。

それが私の見た彼の初めての笑顔でした。

<つづく>